「断言します。あれは事件なんです」 7月28日に行われた会見で事件を担当した元捜査一課刑事の佐藤誠氏はそう明言した。 【画像】木原官房副長官・妻の”元夫怪死事件”第一発見者が思わず涙を流した瞬間 文京区・大塚で発生した不審死事件が異例と言える展開を見せている。 一連の疑惑は’06年4月10日に安田種雄さん(享年28歳)が大塚の自宅で血まみれの状態で亡くなったことから端を発する。 「事件当時、種雄さんは玄関先で血まみれのまま倒れているのを発見されています。遺体は頭上から喉元にかけてナイフで刺したと見られ、当初は覚醒剤の乱用による自殺として処理されましたが、その後となる’18年、事件に疑問を抱いた捜査一課が事件の再捜査を開始。ところが同年12月、理由も釈然としないまま突如として捜査は縮小。遺族に対して報告もないまま現在に至っています」(全国紙社会部記者) しかし、事件からおよそ17年という月日が経った今年7月、週刊文春が三度、不審死の疑惑を追及。当時の種雄さんの奥さんであり、現在は木原誠二官房副長官(53)の妻であるX子さんが事件の重要参考人として警視庁の事情聴取や家宅捜索を受けていたと報道し、埋もれていたはずの事件は再び白日の下へと引きずり出されることとなった。 「文春の一報を受け、種雄さんの遺族は7月17日付けで警視庁へ事件の再捜査を求める上申書を提出。一方、露木康浩警察庁長官は種雄さんの死について『適切に捜査、調査が行われた結果。証拠上、事件性が認められないと警視庁が明らかにしている』とコメント。警視庁としてはあくまでも種雄さんの死は自殺であるという見立てを崩していません」(同前) ’18年の再捜査の際、X子さんの取り調べに当たった人物こそ佐藤氏だった。 元担当刑事でありながら当時の捜査に対して実名で異議を申し立てる。類を見ない告発劇を決めた理由を佐藤氏はこう説明する。 「ちょうど警察庁長官の会見がありまして、この事件を『事件性がない』と言っているのでカチンときた。被害者に対して火に油を注ぐようなことを言っている。被害者が可哀そうだな、と。これは正義感とかそういう話ではないんです。『嘘を言っている』とカチンときただけの話です。最終的にはどうせやるなら全部を話すしか手がないんだろうなと思った。それがここにいる理由です」 会見で佐藤氏は種雄さんの死を自殺と結論付ける根拠がないと主張。警視庁の見解についてもこう反論した。 「(事件の)証拠品であるとか供述であるとかすべて私の所に集中するので、それをずっと吟味していました。正式な発表では『適正な捜査を元に自殺だった』と。結局、そんな証拠品は存在しないんです。断言します。あれは事件なんです。自殺と認定する証拠がない。これは『事件性あり』です。あれを見て『事件性なし』なんていう刑事はいないです」 さらに自殺に使われたナイフの柄に巻かれていたという両面テープの存在、X子さんが「ナイフに指紋がついちゃった」と話したという事件関係者の供述に違和感を持ったとも語る。 「X子さんの指紋がついたって家にあるものなんだから全然不思議ではないんです。それが種雄くんのナイフだったとしても触る可能性はある。それをわざわざ『指紋がついちゃった』。ちょっとおかしくないですか」 しかし、何よりも不可解だったのは唐突とも思える捜査の終了だった。 「(捜査の)終わり方が異常だった。普通の終わり方ではない。今まで殺し(殺人事件の捜査)は100件近くはやってますけど、こんな終わり方はない。この場合だと自殺か(犯人を)捕まえるかのどっちかしかない。もし灰色だったら終わらない。ただ終わり方がね、被害者に対してその説明が全くない。殺人事件は刑事が挨拶して始まります。最後の締めとして『こういう理由で終わります』と言わなければいけない。ただ終わり方が異常。自然消滅したような。要は被害者に対して締めがないわけです。警視庁が『自殺と適正な捜査で認定した』と言うのであればその時に言わなければいけない。それをやってないからこういうことになる。それを今さら言われたって納得するわけないじゃないですか」(佐藤氏) 事件の報道を受け、木原氏は『週刊文春の私と私の家族に関連した記事は事実無根』と反論。7月28日には代理人弁護士が「深刻な人権侵害が生じている」として日弁連に人権救済を申し立てている。8月1日には、立憲民主党の公開質問状に対して「文春を刑事告訴した」と回答していたことも明らかになった。 余波はそれだけにとどまらない。佐藤氏の会見を受け、警視庁の国府田剛捜査1課長は「証拠上、事件性は認められず死因は自殺と考えて矛盾はないと確認した」と改めて強調。 職務上知り得た秘密を話す地方公務員法違反に抵触する可能性について会見で問われた佐藤氏はこう言葉を返した。 「ここまで来たら(気持ちは)変わらないです。しょうがない。(地方公務員法に)触れることは分かってました。でもここはいくしかない。突っ込むしか」 遺族、そして元担当刑事までもが声を挙げた不審死事件。事件から17年、かたく閉ざされた扉が少しずつ開こうとしている―。
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事件の概要
1966年6月30日午前2時、静岡県清水市(現静岡市清水区)の味噌製造会社専務宅が全焼するという火事が発生しました。焼け跡からは、専務(41)の他、妻(38)、次女(17)、長男(14)の4人が刃物でめった刺しにされた死体が発見されました。
警察は、当初から、味噌工場の従業員であり元プロボクサーであった袴田巌氏を犯人であると決めつけて捜査を進めた上、8月18日に袴田氏を逮捕しました。
袴田氏は、当初否認をしていましたが、警察や検察からの連日連夜の厳しい取調べにより、勾留期間の満了する直前に自白しましたが、その後公判において否認しました。
事件の経緯
警察は、逮捕後連日連夜、猛暑の中で取調べを行い、便器を取調室に持ち込んでトイレにも行かせない状態にしておいて、袴田氏を自白に追い込みました。袴田氏は9月6日に自白し、9月9日に起訴されましたが、警察の取調べは起訴後にも続き、自白調書は45通にも及びました。なお、弁護人が袴田氏に会った時間はこの間合計で30分程度でした。
袴田氏の自白の内容は、日替わりで変わり、動機についても当初は専務の奥さんとの肉体関係があったための犯行などと述べていましたが、最終的には、金がほしかったための強盗目的の犯行であるということになっていました。
さらに、当初から犯行着衣とされていたパジャマについても、公判の中で、静岡県警の行った鑑定があてにならず、実際には血痕が付着していたこと自体が疑わしいことが明らかになってきたところ、事件から1年2か月も経過した後に新たな犯行着衣とされるものが工場の味噌樽の中から発見され、検察が自白とは全く異なる犯行着衣に主張を変更するという事態になりました。
第1審の静岡地裁は、自白調書のうち44通を無効としながら、1通の検察官調書のみを採用し、さらに、5点の衣類についても袴田氏の物であるとの判断をして、袴田氏に有罪を言い渡しました。
この判決は、1980年11月19日、最高裁が上告棄却し、袴田氏の死刑が確定しました。
えん罪の疑いが強いこと
袴田氏の45通にのぼる自白調書は、捜査機関のその時点においての捜査状況を反映した捜査機関の思い込みがそのまま作文にされているものです。その自白調書の内容をみるだけで、袴田氏が事件について何らの知識を有さず、無罪であることが如実に伝わってきます。これについては、「自白の心理学」で有名な浜田教授が細かく分析し指摘しているところです。
味噌樽から発見された5点の衣類は、ズボンには血痕の付着していない場所であるのにステテコには付着していたり、ステテコには血痕がついていないのにブリーフには付着していたり(同様のことがシャツと下着にも言えます。)など、犯行着衣と考えると非常に不自然な点が多数あります。また、1年2か月以上も8トンもの味噌につかっていたと考えるには、シャツは依然白く、血液は鮮血色であり、非常に不自然です。これについては、弁護団の実験で、1年2か月も味噌につけられていれば、衣類は焦げ茶色に変色し、血液は黒色に変色することが明らかになっています。さらに、ズボンに至っては、袴田氏には小さすぎて、着衣実験では、腿の辺りまでしか上がってきませんでした。
さらに、犯行着衣とされた5点の衣類に付着した血痕に関し、DNA鑑定により、袴田氏のものでも被害者のものでもないとされました。
袴田氏が通ったとされる裏木戸には鍵がかかっており、人が通れる隙間はありませんでした。これについて、捜査機関は、鍵をはずした上で通り抜け実験を行って裁判所に報告していました。すなわち、捜査機関は、袴田氏を有罪にするために虚偽の実験を行っていたのです。
現在の状況
1981年4月20日に申し立てた袴田氏の第1次再審請求は、2008年3月24日、最高裁が特別抗告を棄却して終了しました。
2008年4月25日、弁護団は、袴田氏の第2次再審請求を静岡地裁に申立てました。弁護団は、5点の衣類の味噌漬け実験の結果を新たな証拠の一つとして裁判所に提出し、定期的に三者協議を行ってきました。
検察は、2010年9月、本事件において初めて任意に証拠を開示し、弁護団は、その精査を行った上、新たな証拠開示請求及び主張をしました。
そして、2014年3月27日、静岡地裁は、袴田氏の第2次再審請求事件について、再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する旨決定をし、同日、袴田氏は釈放されました。
しかし、検察官が即時抗告し、2018年6月11日、東京高裁は、再審開始決定のみを取消し、弁護側が特別抗告しました。
2020年12月22日、最高裁は、高裁決定を取消して差戻しました。
2023年3月13日、東京高裁は、2014年の静岡地裁の再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をしました。そして、検察官が特別抗告をしなかったため、再審開始決定が確定しました。
その後、静岡地裁での打ち合わせが続き、検察官は有罪立証をすることとし、裁判のやり直しを行う再審公判が2023年10月27日から始まりました。
【速報】「大川原化工機」えん罪事件 国と東京都が控訴する方針固める 原告側も控訴へ
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横浜市の機械メーカー「大川原化工機」の社長らが逮捕されたえん罪事件の裁判で、控訴の期限のきょう、国と東京都が一審判決を不服として控訴する方針を固めたことがわかりました。 「大川原化工機」の社長ら3人は生物化学兵器に転用できる噴霧乾燥機を不正に輸出したとして、警視庁公安部に逮捕・起訴されました。 しかし、東京地検は初公判の直前に起訴を取り消し、社長らは「違法な捜査だった」として、国と東京都を相手取りおよそ5億7000万円の損害賠償を求める訴えを起こしました。 東京地裁は先月、警視庁と東京地検の捜査の違法性を認め、合わせておよそ1億6000万円の賠償を命じる判決を言い渡していました。 控訴期限のきょう、国と都は判決を不服として、東京高裁に控訴する方針を固めたことがわかりました。 警視庁は控訴についてきょう午後、コメントする見通しです。 一方、原告の社長らも一審の判決を不服として、東京高裁に控訴する方針であることがわかりました。 捜査の違法性をめぐって、今後、高裁でも審理が行われることになります。
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