金融バブル?現在進行形?

これから「防ぎようのないバブル崩壊」が長く続きそうだ

株価や不動産は一体どうなるのか
小幡 績
2023/03/25 06:30
買収されたスイスのクレディ・スイス・グループ。金融当局は「システムの崩壊はない」と言うが、今後はどうなるのか(写真:ブルームバーグ
競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による東洋経済オンラインの人気持ち回り連載を「会社四季報オンライン」でも掲載。今回は小幡績慶應義塾大学大学院准教授のコラムである。

アメリカのシリコンバレーバンク(SVB)、シグネチャー・バンク(SBNY)が相次いで破綻し、ファースト・リパブリック・バンク(FRC)が危機に陥っている。続いて、欧州でクレディ・スイス・グループが行き詰まり、同国のUBSグループに救済合併されることとなった。

「静かで確実なバブル崩壊」が起きている

新聞などで「もはや世界金融システム危機だ」といった見出しが躍るところだが、それは起きない。金融システムは盤石ではないが、破綻はしない。

なぜなら、2008年のリーマンショック世界金融危機)のときに、欧米の金融システムは念入りな手当てを施した。「バーゼル3」(主要国の中央銀行監督局が加盟するバーゼル銀行監督委員会によって定められた規制強化策)によって、当時よりもはるかに金融危機のリスク耐性を高める対策が取られているからだ。

さらに、今回の金融バブルでは、違法的あるいはそれに近い投融資はごく一部の例外であり、ただのバブルが壮大におきているだけだからである。

世界中の中央銀行は異常な金融緩和、それも量的緩和という実弾で国債などを買いまくる政策をとったから、リスク資産市場はすべてのものが値上がりした。そして、今度は世界中の中央銀行はインフレへの対応として、利上げと引き締めに走ったから、それらのリスク資産の暴落が始まった。

その中でも、もっとも直接的にバブルになっていた世界中の国債(なぜなら、中央銀行という世界一保守的な買い手が、直接買いまくったリスク資産であったからである)、とりわけアメリカ国債の暴落が起きた。静かで確実なバブル崩壊が起きているのである。ただ、それだけのことである。

クレディ・スイスは、違法的かどうかはともかく、リーマンショックと同じような過度のリスクテイク、杜撰な投資を行い、それらが積み重なって破綻危機となった。長い間、危ないと言われ続けていた。だから、今回クレディ・スイスが破綻しても、誰も驚かなかった。

皆が驚いたのは、スイス政府とスイス中央銀行が救済に全力で動いたことである。自業自得であって、政府が救済する理由はないはずだが、金融システム不安が欧州、世界に広がることを何がなんでも防止するために動いたということだ。

「債券と株式の根本原則」に反する措置をとる代償

この結果、今後も大きな銀行であれば必ず政府が救済してくれるというモラルハザードが生まれた。今後、中小の金融機関が破綻したときに、「クレディ・スイスを救ったのに、もっとまっとうな金融機関を救わないとはどういうことだ」という議論になり、結局はすべての金融機関が救われることになってしまう。

さらに今回は、株主価値がゼロにはならず、一定の価値を維持した(UBS株と株式交換となった)。それにもかかわらず、「AT1債」と呼ばれる劣後債は無価値となった。

だが、この措置は、今後の金融システムの安定性に大きなリスクをもたらす。なぜなら、劣後債とはいえ、株式に劣後するというのは、債券と株式の関係の根本的な原則に反し、今後、劣後債を引き受ける投資家はいなくなってしまうからだ。

実際、劣後債による資本性資金の調達は止まるだろうし、すでに社債市場全体の価格が下落している。なにより、金融システムの安定性がリスクにさらされたときに真っ先に必要になるのが、この手の劣後債による資本増強のはずだ。これが当面の間(少なくとも現在の金融システムに対する不安が完全に払拭されるまで、つまり、現在のバブル崩壊サイクルが完全に終わるまで、実際には5年以上となるだろう)不可能になってしまう。

となると、普通株式による増資しか手段はなく、不安が台頭している中で株式増資するとなると、大幅な株価下落や株式価値の希薄化を甘受して増資することになる。これでは「最後の手段以外には」、つまり、破綻必至になってからしか実現しえなくなる。

すなわち、金融システム不安の状態ではいかなる資本増強も行えず、破綻が現実化した場合にしか資本増強は起きず、「金融システム破綻を座して待つしかない」ということになる。

しかし、私や市場関係者にもわかるようなこんな単純なことが、スイス政府やスイス中銀が気づいていないはずはない。だから、彼らはこのリスクを承知で、あえて救済したのだ。

株式価値を残したまま救済したのも、強引に即時救済を決めるのに、クレディ・スイスの株主が反対しないようにするためだった。すなわち、金融システム危機必至という状況は存在しているのであり、それからは逃げられなくなっているのである。だからこそ、金融システム危機を100%起こさないように、すでに最終手段に出たのである。

逆説的であるが、金融システム危機が必至であるからこそ、金融システム危機は起きないのである。危機が起きたときは、すでに破綻必至の情勢になっているだからこそ、危機には絶対にさせないのである。

古典的な破綻であるがゆえに、事態ははるかに深刻

これは、シリコンバレーバンクやシグネチャー・バンクが破綻したアメリカでも基本的には同じ構図である。

しかし、シリコンバレーバンクは、クレディ・スイスと違って例外的な、問題のあった金融機関ではない。普通に預金を預かり、普通にアメリカ国債などで運用していただけなのだ。それが、ごく普通に、当たり前のように破綻したのだ。

いったい何が起きているのか。それは「19世紀型の銀行破綻」である。つまり、単純な預金取り付け騒ぎが起きたのだ。古典中の古典、どんな教科書にも出てくる銀行破綻の典型例が、21世紀の人類歴史上最も進んで洗練されたビジネスピープルであふれるアメリカ・シリコンバレーで起きた。

あまりに単純で原始的な取り付け騒ぎによる破綻。だからこそ、これは、クレディ・スイスよりもリーマンショックよりも、はるかに深刻なのだ。
なぜなら、同じことが、いつでもどこでも、これから日常的に起きる可能性があり、実際起きると見込まれるからだ。

しかし、ジェローム・パウエルFRB連邦準備制度理事会)議長は、シリコンバレーバンクは「ひどい経営だった」と3月22日のFOMC連邦公開市場委員会)後の記者会見の質疑ではき捨てた。いったい、どんな酷い経営だったのか。

それは、単純なALM(資産・負債の総合管理)のミスである。短期の預金という負債を抱え、それを預金よりは満期の長い債券などで運用していた、という期間のミスマッチである。

しかし、なぜまっとうな銀行がそんな単純なミスをしたのか。それは、ミスではなく、わかっていながらやったことなのだ。なぜなら、完全なALMを行うためには、受け入れた預金をすべて現金のまま置いておくしかない。しかし、預金を全額現金のまま置いている銀行がどこにあるだろうか。

取り付けも損失も生じないが、しかし、運営コストが丸々赤字になる。破綻どころか、破産確実だ。だから、運用する。貸し付ける。そうすると、取り付けが起きると対応できない。破綻する。取り付けは起きてしまえば、逃れる道はない。即座に閉めるしか道はない。ネット取引の現代では、ネットも停止するしかない。

現実的には、起きてしまえば間に合わない。取り付けとは、何があっても避けられないのだ。だから怖いのだ。

「破綻の真犯人」は一体誰なのか

では、なぜ非合理的な取り付けが起きてしまったのか。人々は、預金を引き出そうとしたのか。それは、運用していた債券の時価が下落したことだ。

資産の棄損を恐れて、預金が引き出され、それに対応するために債券を売却して、損失が拡大し、万が一に備えて資本を増強しようとした。しかし、債券売却と資本増強のニュースはさらに取り付けを加速し、あっという間に破綻した。

なぜ債券の時価が下がったかというと、いうまでもなく、中央銀行の利上げだ。なぜ利上げしたかというと、インフレだからだ。なぜインフレになったかというと、新型コロナウイルスによる供給ショックもあったが、給付金をばらまいてバブルにしたからだ。

そして、コロナ明けでたまっていたカネと欲望が噴出して、サービス消費を中心にインフレは加速した。これに慌てて対応して、金利を急上昇させたのである。

つまり、シリコンバレーバンクの破綻の犯人は、やはりバブルなのである。しかし、リーマンショックなどと違って、バブルに踊った欲望が直接的に投機を行い、それが破綻したのではなく、バブルに対して普通に市場全体、経済全体が盛り上がったことによる必然の帰結なのである。だから、バブルという「特別な」ものではなく、「普通の」バブルが「普通に」広がって起きた、必然の帰結の銀行破綻なのである。

そこへ輪をかけて、“普通の”「特別な」バブル投機の影響も受けて、シリコンバレーバンクは破綻した。すなわち、起業バブル、スタートアップバブル、ユニコーンバブルで、シリコンバレーはカネが異常に集まった。

人々は勝手に出資してくれた。スタートアップ企業としては資金調達をいい条件でできるなら、しない手はなかった。しかし、まだ事業は形にならず、実物投資は必要ないから、さらにスタートアップステージに近い企業に出資した。金融投資した。

しかし、彼らも資金が集まりすぎていた。余ったカネは起業家たちの個人資産になった。企業としても個人としても、カネが余った。だから銀行に預金した。

現在の深刻な問題とは何なのか

預金の集まったシリコンバレーバンクは、スタートアップに融資した。しかし、前述のようにカネは余っていたから、融資はいらなくなってきた。しかし、もともとスタートアップへの融資、あるいは買収などのつなぎ資金への融資が中心だったから、利回りは高かった。

その機会がなくなったが、預金は以前よりもはるかに多く集まってきてしまった。1年で倍以上になっていた。スタートアップへの融資ほどには利回りは高くなくても、それなりの運用が必要だった。だから、長期の債券、それなりに利回りのとれる債券で運用した。

シリコンバレーバンク自身は、流動性の確保には最大限注意を払っていた。企業に融資するのではなく、いつでも売れる、しかも国債などの流動性の極めて高い債券で運用していたから、彼らとしては、これ以上ない流動性を確保しながらの運用だったはずだ。

それでも、預金が一気に引き出されれば、取り付けで破綻するのだ。要は、バブルでカネが集まりすぎたのがもう1つの原因だった。したがって、シリコンバレーバンクの破綻は二重の意味でバブルの自然な帰結だった。

しかし、最大の問題は、これはほとんどすべての金融機関に起きている、しかも現在進行形で起きていることなのだ。そして、これがシリコンバレーと同じことであり、同様のリスクを抱えているとわかっていても、どうしようもない、対処のしようがない状況であるというのが、現在の最大の問題なのだ。

当局もわかっているし、金融機関自身もわかっている。しかし、どうしろというのだろうか。廃業して、預金をすべて返却するか。あるいは現金をすべてそのまま保管し、金融機関でありながら金融機能は果たさずに「現金の倉庫」となり、しかし倉庫よりもはるかに高い経費と人件費と規制に縛られ、日々、損失を出していくということだ。

これらができないというなら、シリコンバレーバンクと同じ「がひどい経営」、つまり、普通に国債で資金運用をするしかない。

だから、すべての金融機関が、現在陥っている罠(わな)から逃れることはできない。そして、それを監督し、コントロールしているはずの中央銀行自身が同じ状況なのだ。

日本銀行ほどではないにせよ、世界中の中央銀行がバランスシートを膨らませてきた。その資産は日々毀損している。債券の時価が下がり続けているからだ。すなわち、金融市場全体が日々、資産を失っているのだ。

ただし、中央銀行には、市中の金融機関と違って、1つだけ逃げ道がある。それは利上げを止めることである。利上げを止めれば、資産の時価の下落は止まる。また、金融機関に払う付利(短期金利の水準で金融機関の中央銀行への当座預金へ利子をつける)が少なくなる。

「では、そうすればいいではないか?」と思われるだろうが、そのツケは金融市場から実体経済に移される。インフレである。人々が持っている現金の価値が毀損する。預金資産が毀損する。生活が苦しくなる。そして今、こちらも現在進行形である。

すなわち、リーマンショック後、金融市場の壮大なるバブル崩壊のツケを先送りし、それを中央銀行量的緩和という形で引き受けさせたツケが、政府財政と中央銀行のバランスシートにたまり、それと同時に、経済においてもインフレによって人々の資産が毀損し、生活が苦しくなっているのである。

壮大なるバブルのツケを政府財政と中央銀行金融政策に肩代わりさせたが、彼らの容量も超えたため、金融市場、実体経済、双方の全体で、これらのツケを今払い始めているのである。

信用収縮とインフレが同時進行する懸念

では、これからどうなるのか?

アメリカのジョー・バイデン大統領やジャネット・イエレン財務長官は、シリコンバレーバンクとシグネチャー・バンクの預金全額保護において、税金はいっさい使わないと明言した。

ということは、今後も税金は使えない。しかし、すべての金融危機は回避しないといけない。預金は全額守り、金融システム危機は起こさない。そのためには、カネをどこかから持ってこないといけない。カネの代わりとなる手段を講じないといけない。

それは、金融規制強化、監督強化、ということがまず1つだろう。となると、金融機関の融資姿勢はとことん固くなる。まさに日本が1990年代後半に見た景色だ。いわゆる住専問題が国会で無駄に紛糾したために、それ以後、本当に資金を入れなければいけない金融機関へ税金で資本注入できなかった。その間に、あれよあれよという間に債権は劣化し、金融システムは破綻寸前となった。

もちろん、これと同じことが起きないように欧米当局は全力で取り組むだろう。そのツケは、必要以上のクレジットクランチ(信用収縮)による不況と、それと同時に起きるインフレとなるだろう。

ということは、今後の世界経済は長期にわたる大停滞となるだろう。

リーマンショック後に議論になった長期停滞論は、今のインフレ騒ぎで忘れられているような形になっているが、実はこの長期停滞はずっと続いているのであり、それをごまかすために行われた量的緩和により、同時にインフレも恒常化しつつある。つまり、今後は長期にわたるスタグフレーション(不況下のインフレ)となるだろう。

そうなれば、もちろん株式市場は冬の時代となる。1970年代のように「株は死んだ」と言われるような状況になるだろう。もちろん不動産も同じだ。不動産は株よりもさらにひどいかもしれない。なぜなら、株は死んでも、技術革新は起き続けるが、不動産の効率的な活用が進んでいるわけではないから、不動産は単純なバブルであり、それが長期にわたり、ゆっくりと崩壊し続け、停滞を続けるだろう。

「防ぎようのないバブル崩壊」がゆっくり長く続く

今後は、シリコンバレーバンク破綻と同じことが、すべての金融機関で部分的に起こり続ける。多くの債券を保有している日本の金融機関もだ。

当局は金融機関を破綻させないように全力を尽くすが、それでも破綻する金融機関が1つ、また1つと現れ続けるだろう。ファンドなどの運用主体は、それよりも激しく破綻するところが少しずつ出続けるだろう。

これはクレディ・スイスと同じような現象として起こるだろう。しかし、金融機関でないなら、救済はいっさいされず、保有資産の投げ売りが起き、リスク資産市場全体は下落と小康状態を繰り返すだろう。このような動きは、世界中で、今後1つずつ起こり続けるだろう。

金融市場全体、経済全体、世界中が大きなバブルに包まれており、そこでは誰も極端にリスクも取らず、悪いこともしていない。だが、銀行の規制をリーマンショック後、強化していたとしても、防ぎようのない必然的なバブル崩壊が今起きている。これがゆっくり崩壊し続ける。

リーマンショックのような短期のシステミックリスクはない。暴落もない。パニックもない。しかし、バブルは崩壊していく。だから、もう打つ手もない。近代資本主義は、まだ終わらないだろうが、そのカリカチュア(戯画)をわれわれに先に見せてくれているのが今だ、と考えればよいだろう